こんにちは、Pythonエンジニア育成推進協会 顧問理事の寺田です。私は試験の問題策定とコミュニティ連携を行う立場です。
さて、2023年4月19日から27日にかけて、アメリカのユタ州ソルトレイクシティでPyCon US2023が開催されました。
今回も私は参加してきたのですが、そこで見た参加者の傾向や、初学者向けがイベントとどう関わり、楽しむかを中心にお話したいと思います。Pythonエンジニアがこのイベントでどう仕事を求めていたかについても書きましたので、今後のご参考にも是非ご一読ください。
■PyCon USとは?
PyCon USは、Pythonのリリースや知的財産管理、コミュニティ支援を行うPSF(Python Software Foundation)が主催するイベントで、2003年に初回が開催されて以降、最近は毎年4月か5月に開催されています。開催地は北米の地方都市でやることが多く、2年連続同地域で行います。昨年も今年と同じソルトレイクシティで開催されましたので、来年は別の都市になると思います。
さて、PyCon USの参加者の多くはアメリカからですが、PSF主催であることからPythonのイベントの中でも中心的なイベントであるため、Pythonの仕様を決めるSteering Council(言語仕様を策定する委員会)メンバーも参加することから、世界各国からPythonの開発者が集まります。今年はSteering Councilの5名全員が揃いました。
参加者の規模は、毎回3千人ほどが参加していますが、近年はパンデミックの影響もあったことから人の流れや参加の傾向が変わってきていました。今年は現地で2250名、オンラインで490名が参加しており、昨年の約1700名の出席を考えれば回復基調にあるという印象です。
ちなみにPyConと名の付くイベントは世界50か国で開催されており、日本でも開催されています。
日本のPyCon JPは2011年から開催していますが、毎回大体1000名ほどの参加ですので、PyCon USの規模の大きさがお分かりいただけると思います。
■PyCon US 2023は過去にないほど初参加者が多かった
基本的にPyCon USは圧倒的にアメリカから来る人が多いのですが、今年はアジア圏からの参加者が結構多く、一方で、ヨーロッパからの参加が少ない印象でした。
基本的にカンファレンスなどのイベントでは常連が多くなりがちで、なかなか新しい人が入らないという傾向にあるのですが、今年は現地参加の77%が初参加者だったそうで、非常に驚きました。
ちなみに私自身は2019年から参加しており、今回が3回目の参加ですが、今回、私が一緒に参加したメンバーの中に韓国から参加している常連がいました。その彼曰く、今年のイベントではいつも会う人と会わなかったそうで、たしかに常連メンバーの参加が少ない回でもあったようです。実際、私の知り合いの常連は今年来ていませんでした。
常連の不参加を考えればイベント自体への飽き感が見える部分はありますが、今回、初参加した人たちのモチベーションとして、「行ったら楽しそう」、「行くといいんだろうな」と思っていての今回だったのだろうと思えば、そういった印象を持てる場所があったこと自体良かったことだと思いますし、77%という数値からは他にもそう思う人が多くいるのだろうと思います。
ところで、開催場所が普通であれば何かないとなかなか行かないような場所だと、一度くらいは行ってみようかなというモチベーションも生まれるらしいです。ただ、2年連続同じ場所になるというのは例年決まっているので、会場慣れや利便性が上がるという良さがある一方、同じ場所ならいいやと思う人もいるので良し悪しだなと思います。
■常連ならではのイベントの楽しみ方
さて、カンファレンス自体はトークを聞けるのが面白いところです。が、実は常連になるほどトークを聞かない傾向がみられます。私も今年はほとんどトークを聞かず、メイン会場でやってるキーノートと個別トークを1つ2つ聞いた程度で、それ以外の楽しみを優先しました。
現地で参加することの利点は空気感を肌で感じられることや、話をして知識を得られることだと思います。
例えばトークを聞いていると、周囲がどこでざわついて盛り上がっているのかという情報や、終わってすぐにわからなかったところを周囲にいる人とディスカッションすることができます。これは現地でないと体験できない、オンラインにはない大きなメリットだと思います。
もちろん海外でのイベントだと英語でのコミュニケーションとなりますので大変な部分はありますが、現地で知り合いを作れるというのは楽しみ方の重要なポイントと言えますので、時間とお金に余裕があるなら好きなカンファレンスに行くのはとてもメリットがあると思います。
「初心者は行ってはいけないのでは」、「参加してもわからないのではないか」という心配はわかりますが、それは間違いです。初心者でも楽しめるトークはありますし、そこで適切に行動すれば、持ち帰る情報には厚みがでます。
一人で参加して英語のスピーチを聞いてもよくわからないことがあるのは仕方ないことだと思いますが、ただそのままホテルに帰って復習して寝てしまうのはもったいないので、ぜひ周囲とのディスカッションを通してわからないことを聞いたり、聞き逃した情報を得られる機会として活用してみてください。さらにそこから友達になれればさらにそこから友達を呼ぶという好循環が生まれることもありますので、より質問がしやすく、イベントへの参加時に一緒に行けるという関係ができてきます。
来年のPyCon USは5月中旬にピッツバーグで開催されますが、私も参加する予定です。このコラムを読んで来年行ってみようかなと考えている人はぜひ現地で私を探してみてください。楽しみ方などお話しできると思います。
■今年のPyConはJPではなく、APAC
ところで、今年のPyCon JPはJPをAPACに変えて10月に東京で開催します。
APACは2010年にシンガポールで開催されたアジア初のPyConイベントで、毎年アジア各国が持ち回りで開催しています。日本でのAPACは2013年に開催して以来、10年ぶりです。
2013年の時のイベントの代表は私が勤めましたが、当時を振り返ると日本の参加者がほとんどではあるものの、台湾や香港、韓国などの近隣国からの参加者もいて多少国際色が豊でした。実質的にはJPとさほど内容は変わらないと思いますが、年に一度、アジア圏を中心としたPythonエンジニアが集まる機会となりますので、例年にない国際色豊かなPyConとなると思います。
ちなみに前回も今回もトークは日本語と英語ですが、どこまで通訳するかはまだ決まっていないようです。英語だけ、日本語だけしかできない人でも楽しめるようなイベントになることを期待しています。
開催は東京で10月27日(金)、28日(土)になります。チケットの販売予定はまだ決まっていませんので、開催日が近くなったら公式Blog (https://pyconjp.blogspot.com/) をチェックしてみてください。
参加してもらえればいろんな発見があると思いますので、初心者だからわからないと尻込みせず、ぜひ参加してみてください。
国際色豊かと言っても多くのスタッフは日本人なのでコミュニケーションが取りやすいはずです。友人や同僚を誘ったり、隣に座った人と話をしてみたり、周りの人の反応しているのを見て感心のある場所を感じてみるなど楽しんでください。
■PyCon USならではの催しと言えばジョブフェアー、今年は異色
実はPyCon USでは毎年、カンファレンスとは別の区画でジョブフェアーという求人求職イベントが開かれています。ここでは20~30社程度の企業のテーブルが並んでおり、人事の担当者や所属エンジニアから直接仕事について気軽に話を聞くことができるとあって、人気なコンテンツのひとつです。マッチングはもちろんありますので誰しもが就職につながるものではありませんが、きっかけになる場所です。
今年はアメリカで大規模なレイオフ(リストラ)が続いたことが影響してか、出展する企業が少ない印象で、Python業界にも影響が出ているんだなという事を実感しました。
今回出展者しているうちの2社に話を聞いてみました。
1社はカリフォルニア州にある会社で毎年出展しているそうですが、今年は例年と雰囲気が全く異なり、求職者側がペーパーのレジュメを持参して参加しているという非常に真剣な雰囲気を持っており、すでに何人ものレジュメを受け取ったのだそうです。今までであればメールアドレスの交換程度だったそうなので、それを考えれば、今までにないほどの真剣さだったことがうかがえます。
もう1社は日本のIT企業で、PyCon JPでもスポンサーになってくれているHENNGE株式会社さんです。
担当者の方によれば、参加している人の属性が多様だったそうで、学生や就職したばかりという人より、シニアレベルの方が特に多かったようです。
アメリカではビッグテック企業のレイオフが続いたことで、職を探している人が多い状況です。そのため、これまでなら難なく仕事が見つかっていた人でも、いい条件での就職が見つかりにくい状態に陥っているのではないかと予想しています。
実際、職探しをしているのは駆け出しエンジニアより、それなりの実力のあるエンジニアが多く、この時代になかなか紙でのレジュメを渡すという事が少ない中で何人もの人が持参しているほどの真剣具合から、このイベントに期待していることが分かります。
2019年のイベントの際、就職活動の一環で参加していた現地の学生と知り合ったことがあります。その人が言うには、アメリカでやってる他のジョブフェアーに比べたら、担当者に直接会えて連絡先も直接交換できるPyCon USは他にはないほど良いイベントだということでした。
ここで一つ思ったのですが、これだけ仕事を求めている人がいるということは、普段はエンジニアの採用が困難な中小企業でもPythonエンジニアを獲得しやすいチャンスなのではないかという事です。
アメリカのイベントではありますので、確かに英語力が必要ですが、多くの人が応募する可能性がある今、こうしたイベントに参加して自社にマッチングする良い人を見つけられる可能性は高く、また海外のエンジニアを採用したいと考えている企業にとってはいいチャンスなのではないでしょうか。求職側からしても実績を直接説明できれば、採用される可能性は高まります。
双方の希望がマッチングするいい採用・就職先が見つかればいいなと考えています。
■さいごに
Pythonに関わる技術のいろいろな話がカンファレンスでされますので、知識や知見を増やすことができますが、カンファレンスに参加する意義はそれだけではなく、仲間を増やし、勉強のモチベーションを挙げるのにつなげることができるいい機会を得られることもあります。
人見知りの人からすれば、初対面の人と話をするなんて…と思うかもしれません。
確かに勇気がいることかもしれませんので、そうした時にはまずブースにいる企業の人に話しかけてみるのもいいでしょう。それなら優しくいろんな話をしてくれますし、名前を憶えられても問題はありません。また、もし合わなければすぐに離れて次に行ってしまいやすいのでハードルは低いはずです。
そうして知り合いを増やしていくと、別のイベントでばったり会うことがあります。
今回、私はPyCon JPのスタッフと現地でばったり会って、夕飯を一緒にしてトークの内容についてディスカッションしてきましたが、これによってキーノートの内容が頭に入り、より理解が深まりました。
ぜひ機会があれば試してみてください。
ちなみに私の技術的な一番大きいと思った知見は、プログラムを実行するときに使うメモリの可視化です。
プログラムを実行する際、メモリが適切に割り当てられ、適切に動いているかは学習が進むと必要な知識です。
昨年これに関するツールが発表されたのですが、今年のカンファレンスでその内容が深堀されていました。いまはもう一度、このツール使い方や仕組みを調べているところです。
今年の10月に日本で開催されるPyCon APAC、来年5月にピッツバーグで開催されるPyCon US2024が大きなイベントになります。初参加など気にせず、ぜひ参加を検討してみてください。